kotoseiryu888’s blog

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押絵と旅する男☆江戸川乱歩を読んで…。

 

押絵と旅する男 (立東舎 乙女の本棚)

押絵と旅する男 (立東舎 乙女の本棚)

 

 

読んだあと、私の頭の中で「世にも奇妙な物語」のテーマ曲とタモリのナレーションが聞こえてきた。

 

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娘が「昨日読んだ本、良かったでー」というもんだから、負けじと読んでみようと思ったのがきっかけで手にした本がこれだ。江戸川乱歩と言えば、ミステリー作家の大御所というイメージで知ってはいたが作品を読むのは初めてだった。謎解きが難しいんじゃなかろかとかという勝手な思い込みで読むことを避けていたのだ。乱歩先生ごめんなさい。

 この作品の描写で気に入った文がこれだ。「蜃気楼とは、乳色のフィルムの表面に墨汁をたらして、それが自然にジワジワとにじんで行くのを、途方もなく巨大な映画にして、大空に映し出した様なものであった。」作家だから当たり前なのかもしれないが描写が想像力の未熟な私でも映像で再現されるぐらい上手い。

あらすじとしては、たまたま乗り合わせた列車で、暗闇の中で風呂敷から取りだした額を、まるで子どもに景色を見せるかのように置く老紳士を見た主人公は、とりつかれたようにその様子を見つめてしまう。40代にも60代にも見える黒い背広を着た奇妙な老紳士から手招きされ、目にしたのは洋装の老人と振袖を着た美少女の押絵細工だった。押絵を窓際に立てていた意味とは何か、その謎が明かされる。そこには幸せを手に入れた代わりに苦しむ老紳士の兄の姿があった。

叶うはずのない恋が叶ってしまった代償は大きかった。といっても、巷で話題の不倫などではない。互いに伴侶はいない。年の差はすこしばかりあいているが、恋をするのに問題はなかった。恋した相手は人間ではなかったことだ。


 兄が恋におちた場所は、凌雲閣という明治期から大正末期まで東京浅草にあった12階建ての塔だった。スコットランド生まれのバルトンが建てた西洋風の建物で展望台や店舗が入っていたと記録されている。関東大震災により半壊し、1923年に解体されている。

 兄が愛する人を見染めたのぞきからくりは、大道芸のひとつで客にレンズ越しに情景を描いた絵を覗かせ「からくり節」と称される節回しに乗せて説明を加えながら、ひもを操作し絵を次々と差し替えながら見せる見世物だそうだ。兄は25歳で恋に落ち、35年たった今もたった一人を愛し続けている。

 この小説は1994年、川島透監督によって映画化されており、私は知らなかったが、浜村純さんという名脇役と鷲尾いさ子さんが出演している。関西のありがとう浜村淳さんではない。
小説ではメインパートが列車の中の額縁の秘密を語るところだが、映画化するにはそのパートだけでは足らなかったのか、弟が兄を捜して町を彷徨うところから話は始まるようだ。実際に見ていないため間違えていたらすみません。

 江戸川乱歩曰く、この作品はある意味では、私の短編の中ではこれが一番無難だといってよいかも知れないと。それほど満足ができる作品だったのではないかと言える。

 わずか67頁の短編なので読み終わるまで1時間もかからなかったです。青空文庫にも収録されているので、午後のひとときや通勤、通学の電車の中でも十分読めます。ミステリー好きでなくてもお勧めです。原作通りの短編映画が出たらぜひ見てみたいと思います。